メノキの本&

メノキ書房株式会社 代表取締役 立木寛子(たちき ひろこ)

2023年8月、メノキ書房株式会社は誕生しました。場所は群馬県前橋市。地方で出版社設立です。しかも、デジタル優先、紙の文化が衰退しつつある中で、です。「どうしてまた?」「やっていけるの?」の声多数でした。でも、エディター歴40年以上の富澤隆夫さんとふたりで船をこぎ出しました。

なぜ私は出版社を始めたのか。やや長い話になります。

2021年秋、視覚障害者とアートを繋ぐ活動を柱にした一般社団法人メノキが立ち上がりました。代表は三輪途道(みちよ)さん。木彫作家として活躍していた三輪さんは、この年、目の難病で視覚を失いました。55歳でした。彫刻家にとって視覚を失うということは致命的です。しかし、彼女は見えなくなっても彫刻家であり続けています。

彫っていた木を捨て、彫刻刀は棚にしまいました。そして手に取ったのが粘土でした。粘土で形を作り、その上に漆と麻布を何枚も重ね張りして成形、乾燥後、中の粘土をくりぬいて形を整えるという、仏像を作る手法の一つである脱乾漆(だつかんしつ)で制作を続け、現在は、その手法を独自にアレンジした塑像づくりに力を入れています。その三輪さんの口癖が「見えなくなって初めて見えたものを社会に還元したい」。この言葉に引き寄せられるように仲間が集まり一社メノキ設立となりました。私と富澤さんもそのメンバーでした。

ライターの私は、一社メノキの出版部門を受け持ち、翌2022年に三輪さんをモデルにした絵本『みえなくなった ちょうこくか』を書き、出版しました。絵本の画は、三輪さんの過去の木彫作品と脱乾漆作品で構成しました。

この本が多くの出会いを生み、メノキの活動の幅を広げてくれました。詩人の谷川俊太郎さんは推薦の言葉を寄せてくださり、ノンフィクション作家の柳田邦男さんは雑誌連載されている「おとなが読む絵本」(『看護管理2023年3月号』医学書院)」のコーナーで書評を書いてくださいました。読者からは温かい手紙が届き、絵本を読み合った方々からは心温まる寄せ書きが送られてきました。それらを目にし、胸がいっぱいになりました。

こうした感動が、株式会社としてメノキ書房を独立させる原動力となりました。営利活動に制限のある一般社団法人の中ではやれなかった広がりを求め、作りたい本をより自由に社会に届けるため会社設立という形を選択しました。

2023年9月には、谷川俊太郎さんと三輪さんがコラボした詩画集『かべとじめん』を出版。メノキ書房株式会社として最初の書籍となりました。

今後も、見えない人、見えにくい人、見える人、誰もが楽しめる本作りをベースに、多くの方の心に届く本を創作し続けていきたいと思います。

さらにこの先メノキ書房が目指しているのは、見えない人が手で触って理解し楽しめる「触察絵本」のジャンルを確立することです。そのための研究も始めました。

視力を失ったアーティスト・三輪途道の目線を大切に、メノキ書房は歩いていきます。

紹介記事はこちら→「介護福祉の応援サイト けあサポ」

メノキ書房株式会社 https://bookmenoki.com/

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